ジャズを知ったのがオスカー・ピーターソンであり、彼のトリオであるジョー・パス、ニールス・ペデルセンであった。それはソロイストの集団であり、それぞれの楽器の持つ個性と特徴を最大限に発揮するというバーチュオーゾだけが到達できる個人芸の世界である。そして、ハモニカのトゥーツ・シールマンスを知ることができた。
ある日、FMから軽快なバイオリンの音色が聞こえた。その音色よりも何より羽が生えたような飛ぶような軽快なフレーズに心を奪われた。そして、バイオリニストの名前がステファン・グラッペリと知るやいなやレコード店に駆け込んだ。そうして手に入れたのが、紹介する『煙が目にしみる』、ジェローム・カーンを歌い上げたアルバムである。バイオリンでジャズを弾く、彼もまたトゥーツ・シールマンスと同様、ジャズの世界で、一つの楽器を唯一無二の芸術まで高めた人であり、トゥーツ・シールマンスとの饗宴、オスカー・ピーターソンとの饗宴も果たしている。
ジャズは、楽器の音が命であり、その音は誰の音でもない揺るぎない個性に立脚していることが前提である。だからこそジャズは、『音』なのであり、その音を追求する姿勢がすべてとなる。ウイントン・マルサリスがデビュー当初持てはやされたとき、マイルスが語ったそうだが、「自分の音でプレイしろ」だったそうだ。
ステファン・グラッペリのバイオリンは、バイオリンという楽器の音で表現することは不可能だ。彼の音はフレージングと一体化しており、揺らぎながらひらひらと流れていく。彼の歌い心は誰にも真似が出来ない唯一無二のバイオリンジャズとして、今も人々の記憶に残っているのである。トゥーツ・シールマンスがハモニカでなし得たように、彼もまたバイオリンでスイングするという演奏スタイルを確立した人であり、以後彼の後を継げる人がいないのも、残念なことだが偉大すぎるほどの存在なのである。